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やっくんの物語 その2

前回は麻酔から目覚めないやっくんのお話まで綴りましたね。

さて、続きです。

翌日の、ヴィーガンアイスクリームレッスンの朝。
佐和子さんから連絡が入ります。

やはりやっくんは起きないので、このままだと今日の夕方にはお別れになるかも知れないと。

そんな日にレッスンとか、本当にいいの??? と何度も尋ねましたが、彼女は気丈に準備も全て済ませているのでした。

やっくんとさあくん。

梅雨の時期でした。

直線距離で数キロという私の家から彼女のご自宅までは、電車ではとても遠回りです。
私は自転車で行くつもりで準備をしていたのですが、どうにも昼頃まで雨がやみそうにありません。

いざとなったらタクシーか・・・ と、ギリギリまで待ってみます。

しかし自転車で行くならそろそろ出ないと間に合わないという頃になっても雨はしっかり降っていて、とうとう私は諦めてタクシーで行くことにしました。

その時もまだ、やっくんから届いていた声は決して伝えまいと硬く心に留めておく決意で、私は駅で拾ったタクシーに乗ります。

すると彼女の自宅近くへ、とっても早く到着してしまいました。


雨の休日なので道路状況が良く分からなかったし、タクシーが直ぐに来てくれるかも分からなかったので、自転車で行くのと同じ様な感覚で時間を見ていたら結局30分以上早く着いてしまったのでした。

しかし講座の準備って私も経験がありますから、あまりにも早く来られると迷惑だろうと思い時間を潰すためにそこにあったコンビニに入ります。

あぁ、でも・・・ 

私は狼狽えます。

これなら、一緒にレッスンを受ける方がまだ来られないうちに彼女と二人で話す時間が出来る・・・?

いやいやいや、でもしかし・・・

コンビニをうろつきながら狼狽える私をよそに、まるで誰かの采配によって時間が出来たかのような最良のタイミングなのも感じます。

一応、佐和子さんに電話をしました。

でもきっと、まだレッスンの準備中でしょうし・・・などと思う私とは裏腹に、もうすっかり準備も終えているのでどうぞ来てくださいと仰る佐和子さん。

私は本当に本当に、すっかり神妙な面持ちでご自宅へ伺いました。

佐和子さんは、いつも通りの笑顔で出迎えてくれます。

そしてリビングに通して下さると直ぐに目に留まってしまったのが、やっくんと、兄弟猫のさぁ君のフタリのお水とごはんのお皿が並んでいるトレーでした。

私はもうそれを目にしただけで泣けて泣けて仕方がありません。

ここで佐和子さんとご家族とやっくんとさぁ君が家族の時間を育んでいたんだ・・・ と。

そこには濃密な暖かな時間の記憶が確かに存在していて、それに触れることそのものに涙が溢れてしまいます。

少し、佐和子さんのお話を伺いました。
やっくんの状態、今夜お嬢さんも帰って来られること、ご主人のご様子、など。

私はそんな佐和子さんを見ているうちに、”この人は全てを受け止めようとしている” と感じます。
今にもポッキリと折れそうになりながらも、それでも全て受け止めようと、その覚悟を持っているのだと感じました。

普段から逃げるとか、誤魔化すとか、すり替えたり取り繕うと言ったことを彼女は一切しません。
不器用でも、実直に何に対しても真正直に真摯に向き合う人。

そしてこの時チラリとお会いしたご主人からも、同じものを感じました。

いよいよ、私も覚悟が決まります。

「 実はね、佐和子さん・・・」 

あれほど言うまいと硬く決めていたやっくんの言葉を、私はボロ泣きしながら伝えていました。

私も取り繕ったり、言い逃れするようなことはしないで真っすぐに伝えよう。

彼女にどう思われるか、何て言われるか・・・

もしかしたら拒絶されるかも知れない類のことを伝えるのは、私にとっても大きなことで、本当は伝えまいとずっと固く決めていたこと、ここに早く到着して時間が出来てしまっても、それでも散々迷ったことなどもお話ししました。

佐和子さんは一瞬、目を見開いて硬直します。

そして次の瞬間、「 あぁ・・・・・ 」 と。

何か全てが腑に落ちたかのような、納得というか悟りと言うのか、目が座った様な感じでした。

やっくんが、このおうちで全ての役割を果たし終えたということを私が伝えるというこの流れは、一体何なんだろう・・・
私はやっくんに会ったこともないのに・・・

その後のスィーツレッスンは、とても楽しく進みました。

そしてレッスンが終わる頃にご主人とお嬢さんが戻って来られると、佐和子さんはしっかりと私が伝えたこと、やっくんからのメッセージを、ご家族皆さんに真っ直ぐに伝えるのです。

こう言うことを受け止められない人だっているだろうにと、私は本当にハラハラしてしまったんですけど、でも彼女の家族は一つでした。


帰りには、雨はすっかり上がっていました。

私だけ他の方と方向が別で、佐和子さんが道案内をしてくれます。
その場でまた二人で泣いて、泣いて・・・。

それでも、泣きながら、彼女は私にお礼を言ってくれて、その上、”私は全てを受け止めたいから全部言ってくれて大丈夫です” としっかり仰ってくれました。

何だか私の方が救われた気持ちになりました。

私が視た世界、受け取った言葉を伝えるためには、やはり ”この人なら大丈夫” と思える信頼が、お互いの間にあってこそだなぁと。 

そして今日この日に、このタイミングで最適な時間があったことに天の采配と言うのか、やっくんの意思というのか、それらの力が働いたように思えてなりませんでした。

やっくんの物語はもう少し続きます。