少し時間が空いてしまい関東はすっかり梅雨に入りました。
爽やかだった季節の旅路を綴るとあの時の風が吹いてくるかのようですね。
さて、久米島から戻るとその数日後に、夫婦で伊勢へと向かいました。
これは以前から計画していた結婚記念日の旅で、今年は20周年の区切りだったことと、
家族の健康や身の回りの人々のことを祈願したかったための旅でした。
なのですが、久米島~伊勢のインターバル数日間のうちに様々な考察が浮かびます。
先ず私自身の内に潜んでいた南洋のDNA的なものがブートアップされた感覚。
そして伊勢という土地に纏わる過去の記憶。
伊勢もまた海の人々の生きた土地だったと気が付くと、
様々な点と点が結び合わされて行くことで見えて来る自身の魂の姿がありました。
海は、繋がっているのですよね。
その海の流れ、潮流によって旅をした魂の系譜が、南洋~伊勢という今回の旅の流れにリンクします。
南方の系譜はそのまま縄文~レムリアの系譜にも繋がります。
片や伊勢と言えば、古来の渡来人が立てた王朝が国家鎮護のためのプロジェクトとして創設したエネルギースポットですから、この相反する潮流の流れが交わる伊勢において深い記憶がマジカルに蘇るのは何ら不思議なことではありませんでした。
私には伊勢に纏わる哀しい記憶がありました。
どの時代のことでしょうか。
伊勢近隣の漁村、鳥羽か志摩の辺りでのお話です。
とても貧しい漁師と海女の夫婦の間に生まれた女子として、生きた時代がありました。
漁師の夫と海女の妻は、貧しすぎてその子を養うことが出来ずに近くの神社へと奉公へ出します。
小さな村の神社でその女子は働き手として過ごすうちに、巫女的な作法や振る舞いを身に着けて行きます。
どうやら彼女には霊的感覚、知覚、巫女的資質があったのでしょう。
次第に重宝がられるようになって行きました。
その頃の伊勢神宮は、近隣神社の総鎮守であると同時に全国に張り巡らされた神社ネットワークの総本山でもあり、各地の神社から巫女修行をする女子が集められる養成所でもありました。
伊勢は全国屈指のエリート巫女の養成所であり、優秀な巫女たちを輩出して各地の主要神社へと配属させる組織でした。
当然そんな国家プロジェクトですから、都から名のある指導者がやって来ます。
伊勢近隣の村の小さな神社で働く女子にも、その余波が降りかかろうとしていました。
各地から集められたそれぞれの神社を代表してやって来る優秀な巫女たちや、京都からやって来る指導者のお世話係が必要になったのです。
雑用係を差し出すようにとのお達しは近隣の村々へ次々と降ろされ、一応巫女的素養のあるこの女子も伊勢へと向かわされることとなりました。
くれぐれも、各地からやって来る巫女様たちに粗相のない様に。
そして京都からの指導者様を丁重に扱うように。
神社のネットワークとピラミッド型組織の底辺に組み込まれたまだ年端も行かぬこの女子は、それだけを言い含められて伊勢へと出されたのでした。
大人数の組織へ献上する食料や資材なども近隣の村々へとその調達が命じられましたので、この女子もそんな資材の一つ、コマの一つに過ぎませんでした。
伊勢の組織の内輪は、凄まじいものでした。
全国から優秀とされる巫女たちが集まっているのですから、競争心、嫉妬心、野心、ライバル心むき出しの女の世界です。
バックが有力な神社の巫女や、貴族の親族、裕福な受領の親族などの巫女は当然大きな顔をしていますし、そうでない者は能力でのし上がろうとします。
一漁村から差し向けられた小間使いの女子は、そんな強烈なお姉さま方に気圧されます。
強烈なエリート集団がさらにエスカレートした要因の一つは、都からの指導者が男性だったことでしょう。
彼に取り入りたい、気に入られたい、そんな感情が競争心となって一層強烈な女の世界が繰り広げられることとなりました。
集団リンチ的ないじめが発生したり、気に入らない相手を追い出すための画策はあれやこれやと、水面下で行われる世界です。
そんな怖くて恐ろしい環境にこの女子は出来るだけ小さく、小さくして、
自分の存在が目立たない様に雑用係に徹していました。
唯一息が抜けたのは、外から米やお酒を届けてくれる若い少年とのつかの間のやりとりでした。
密閉された神社組織でほんの僅かにでも外の空気に触れられることが、彼女の気持ちを一息つかせてくれたのでしょう。
そんな彼女にさらに試練が降りかかります。
都からの指導者の身の回りをお世話をしていた年配の女性がここを去ることになってしまい、彼女がその後を引き継ぐことになったのです。
身の回りのお世話とは装束や食事、寝所を整えると言ったことを担当する係です。
そこからが大変でした。
今まで遠目で視覚に入っていただけの男性のお世話をすることになった彼女は、
この男性指導者に巫女の素養を見出されてしまい、養成所クラスの末席に入ることを指示されてしまいます。
彼女は当然、お姉さま巫女たちの逆鱗に触れることとなりました。
今まで目にも入らなかった雑用係だったはずの小娘が、エリートクラスにその指導者の推薦で入って来たのですから面白くないに決まっています。
さして強力な後ろ盾のない小娘。漁師の娘が、何を生意気に。
壮絶なイジメが始まりました。
各地の神社から出向していた優秀なお姉さま方は、養成所クラスで優秀と認められると、出雲や京の主要な神社へと向かうこととなります。
それは栄転、出世ですので、彼女たちを擁立した各地の神社側としても格付けになります。
しかしこの女子にはそんな基盤がありませんでした。
他のお姉さま方が持つ闘争心や野心の基盤になるものを、彼女は持ち合わせていなかったのです。
ほぼ身寄りのない彼女には、他に行くところがありませんでした。
漁村へ返ったところで厄介者扱いされるだけですから、ひたすらにイジメに耐えていました。
それに比べたら養成所のお勉強や修行など容易いことでしたし、どうも彼女は能力が高かった様子です。
やがて彼女は、指導者の男性から出雲行きを指示されます。
行きたくない。
ここにいたい。
自分が生きて行く場所なんて他にない。
外の世界を知らない彼女には、出雲行きだなんて怖ろしすぎました。
当然他のお姉さま方も面白くありません。
もう誰も幸せにならないこの展開(笑)
最後の最後に、壮絶な集団リンチが始まりました。
息も絶え絶えとなり、死も覚悟したのでしょう。
しかしそこを出入り業者の少年に助けられ、命からがら養成所施設を抜け出しました。
その後の記憶は定かではありませんが、穏やかに暮らした感覚は残っています。
そんな悲しく壮絶な『 伊勢物語 』を思い出したのは、私がこの世界に入って間もない頃でした。
その後伊勢へ出向く機会が何度かあり、その度にこの記憶を癒して行ったのでした。
そしてまた数年越しにこうして伊勢へ出向く機会がやって来て、もうほとぼりは覚めたと思っていた伊勢での記憶がいつもより鮮やかに蘇って来ます。
それはきっと海の仕業。
繋がる深い潮流が、海人のDNAを宿す海女の娘だった彼女の哀しみを再び掬い上げている。
伊勢へ向かう旅路で私はそんな気がしていました。
続きます。